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Channel: 学芸員の小部屋
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桂文枝に話芸の真髄を見た。

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桂文枝の襲名披露独演会が砺波市文化会館でおこなわれた。
自分はカメラ係として会場入り。

幕が上がって、前座の桂三実、桂三語、桂三歩の3人が立て続けに登場。
三実さんは20歳そこそこの若手だけども滑舌は鋭くテンポも良し。
三語さんは通る声で、腐った豆腐を嫌な奴に食べさせる「ちりとてちん」で
ドッカンドッカン受けていた。

三歩さんは閉園が決まった動物園のゴリラとチンパンジーになりきって
悲哀のこもった話をユーモラスに演じた。思わず唸るほどの語り口で、
「このあとの文枝師匠がいかにすごい噺家でも、
三歩さんの今日の出来には適わないのではないか」と正直思ってしまったほど。


そして、トリの文枝師匠が登場。


観客の拍手にゆっくりと応えながら登場した師匠は、
ピンクの羽織で「宿題」という演目を。

この「宿題」が最高の傑作。

鶴亀算、時速と距離の計算など塾から出された宿題をめぐる、
親子のほのぼのとしたやり取りの話だ。

話の内容を活字にしてみたら、「まあ、そんなもんか」と思うかもしれない。

だが、実際に聞いてみたら腹がよじれるほど笑ってしまった。
それこそ望遠レンズでカメラを構えながら、笑いすぎてシャッターが切れないほどに。

思ったのは、前座の三人と文枝師匠の話し方は全く違うという事。
かんたんにいうと「格が違う」という感じだ。

前座の三人は声を張り上げて、首に青筋を立てて、まくしたてるように
全力で話す。それでも十分に笑えるのだが、
文枝師匠の場合は、ほとんど力を入れずに抜いたような感じでしゃべるのに
笑わずにいられない、という間の入れ方なのだ。

声のハリや滑舌でいえば、前座の三人のほうが上かもしれない。

でも、話の引き込まれ方や笑いの大きさ、笑いの質が雲泥の差だった。
しかも文枝師匠の場合は、笑いが起こったあともしばらく笑いの温かさが残っていて、
休憩時間にもまだ笑いの熱気が残っているほどだった。

例えるなら、前座の三人はファンヒーターのような温かさ。
点火はいいけど、オフにするとすぐに部屋が冷めてしまう。
文枝師匠のは薪ストーブ。火が消えてもしばらく家じゅうが温かい。そういう感じ。

途中から、「なんでこんなに面白いんだろう」と考えはじめてしまった。

とにかく、話にムダがない。
言葉のすべてが笑いにつながっているという感じだった。

そして、話のオチの直前にはそれこそ笑いの爆発が連続して起こり
師匠が袖に下がってからも、まだ笑いが収まらないという現象が。
う~ん、落語ってここまで人を笑わせることができるものなのか。

と、仕事をしながらも文枝師匠の話芸にすっかり引き込まれてしまったのであった。


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